文系の力で医療を変える! 武藤香織 東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 教授
Summary
TLDRこのインタビューでは、話者が誤診をきっかけに医療と社会の関わりに興味を持ち、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)研究に従事するまでの経緯を語っています。ELSI研究は、新しい技術の進展に伴う社会的な影響を評価し、科学者と社会の対話を通じて倫理的・法的課題を解決する分野です。また、コロナ禍における国の対応に関与し、倫理的判断や社会の反応を含めた課題に取り組んできた経験も語られています。未来の医療に向け、社会と科学をつなぐ重要性を強調しています。
Takeaways
- 😀 大学3年生の時に誤診を受け、文系の力で医療を改善したいという強い思いを持つようになった。
- 🧠 ELSI研究は倫理的・法的・社会的な課題を扱う分野で、新しい科学技術が社会に与える影響を多角的に考察する。
- 👥 科学者と社会の対話を重視し、社会のニーズに沿った形で研究を進めることが重要とされる。
- 👶 ゲノム編集など、社会で議論が必要な新技術の利用に関して倫理的な問題提起を行うこともELSIの役割。
- 📞 2020年に新型コロナウイルス対策でアドバイザリーボードに参加し、医療倫理の観点から国の対策に関わった。
- 💬 ダイヤモンドプリンセス号での対応や、重症患者の人工呼吸器配分など、緊急時の倫理的判断が必要とされた。
- 🏥 患者の面会制限や感染者の情報公開に伴う差別・偏見への対策の重要性を強調し、これに関する法改正を提言。
- 💼 文系の立場からも医療に貢献できる場が必要だとし、社会科学系の研究者がもっと関与すべきだと提案。
- 🔬 パンデミックに備え、サンプルの迅速な倫理的運用の改善が必要であり、研究者へのサポートが重要。
- 👶 社会学への関心は、幼少期の社会的規範への疑問から始まり、医療における社会の課題に目を向けることへと発展。
Q & A
ELSI研究とは何ですか?
-ELSI研究は倫理的・法的・社会的課題を研究する分野で、新しい科学技術が進歩する際に、科学者が考えるだけでなく、社会的視点からも問題点を検討し、対話を通じてゴールを目指す研究です。
なぜELSI研究が重要だと考えられていますか?
-科学技術が進歩するとき、倫理や法律、社会の受け入れが問われることがあります。ELSI研究は、これらの問題に対して科学者と社会の視点を統合し、より良い解決策を模索するために重要です。
どのような背景からELSI研究に興味を持ち始めましたか?
-大学3年生のときに誤診を経験し、その際に医療を改善したいと強く思ったことがきっかけです。文系の力で医療を良くできるのではないかと考え、ELSI研究に関心を持つようになりました。
ELSI研究での科学者との対話はどのように行われますか?
-科学者の研究内容について詳しく聞き、法律や社会的な視点からその技術が適切かどうかを一緒に考えます。研究者の視点と社会の視点を調整しながら進める対話が基盤です。
具体的なELSI研究の課題例は何ですか?
-たとえば、受精卵の段階でゲノムを編集して望む子どもを持つ技術が本当に倫理的に許されるのかという課題があります。
新型コロナウイルス感染症におけるELSI研究の関与は何でしたか?
-感染症が広がる中で、倫理的な課題に関するアドバイザリーボードや専門家会議に参加し、患者の権利や社会的な対応について助言しました。
コロナ禍で取り組んだ具体的な問題は何ですか?
-たとえば、ダイヤモンドプリンセス号の乗客を下船させるかどうかや、人工呼吸器の使用優先順位を決める倫理的な判断が求められました。
日本における面会制限に対する考え方はどうでしたか?
-感染リスクがある中で、家族との面会を制限することに対して、家族と会わずに亡くなる人々が増えるのは良くないという問題提起がなされました。
誤診の経験が与えた影響は何ですか?
-大学3年生のときに誤診を経験したことが、医療を改善するための研究に強く興味を抱くきっかけとなり、ELSI研究に進むことを決意しました。
今後のELSI研究の展望についてどう考えていますか?
-もっと多くの人文社会科学の専門家が参加し、より広範な視点から倫理的、法的、社会的な課題を解決することが求められていると考えています。
Outlines
💡 ELSI研究と医療に対する文系のアプローチ
話者は大学3年生の時に誤診を受けた経験から、文系の力で医療を改善できないかと強く思うようになり、ELSI研究に取り組むことになったと述べています。ELSIは倫理的・法的・社会的課題を研究する分野であり、科学技術の進展に伴って生じる社会的な問題を解決するために、科学者との対話や社会の声を反映させることを目的としています。特にゲノム編集やコロナウイルスの感染症など、幅広い分野に関わっており、倫理的な観点から様々な課題に取り組んでいます。
🚢 ダイヤモンドプリンセス号の経験と倫理的課題
話者は新型コロナウイルス感染症の初期対応に関わり、特にダイヤモンドプリンセス号の乗客の対応や、人工呼吸器の優先使用に関する倫理的な判断が現場に任されていた状況を振り返ります。面会制限による患者と家族の問題や、感染者に対する偏見や差別の広がりについても触れ、法改正や偏見防止の取り組みの重要性を訴えています。また、限られた時間や人手で孤立した状況で対応することの困難さについても述べています。
🔍 社会学への関心と医療改善への思い
子供時代から当たり前の価値観に疑問を抱いてきた話者は、社会学を学ぶことでその関心を深めました。大学3年生での誤診体験を契機に、文系の立場から医療を改善したいという思いを強く持ち、最終的にELSI研究へとつながります。話者は、人々の「生きづらさ」を大切にし、未来の科学と現在の患者の間を繋ぐ役割を果たすことを目指して研究を続けています。特に臨床試験に協力する患者の思いや、その貢献を科学者に伝える重要性を強調しています。
Mindmap
Keywords
💡誤診
💡ELSI
💡倫理
💡新型コロナウイルス感染症
💡差別と偏見
💡倫理指針
💡臨床試験
💡人工呼吸器
💡社会学
💡偏見差別防止法改正
Highlights
大学3年生の時に誤診にあったことが転機となり、文系の力で医療を良くしたいと強く思うようになった。
ELSI研究とは、倫理的・法的・社会的課題を扱う研究分野であり、新しい科学技術の進歩に伴い社会の視点を加えた考察が必要である。
ELSIは様々なバックグラウンドの専門家が集まっており、社会学、法律、倫理、政策など多様な視点から問題を考察している。
2020年2月、新型コロナウイルス感染症に関するアドバイザリーボードに参画。感染症の専門家ではないため、初めは戸惑いがあった。
コロナ禍で人工呼吸器やECMOの割り当て問題など、倫理的な判断が求められる場面が多くあり、国の政策に対して改善を求める声を上げた。
偏見や差別の問題にも取り組み、感染者情報の詳細な公表が差別を助長する可能性があることに懸念を示した。
ダイヤモンドプリンセス号の乗客に対する対応やウイルスの研究に協力を求める際の倫理的課題について議論した。
感染症対策において、現場の医療従事者が苦悩しないよう、国が方針を明確にすることの重要性を指摘した。
ELSI研究では、科学者との対話が重要であり、研究の社会的影響を共に考えることでより良い成果を目指している。
生まれてから死ぬまで、全ての人生の段階でELSIの視点が関係することを強調。
受精卵のゲノム編集技術の倫理的問題も最近の大きな課題として挙げられた。
コロナ禍において、特に家族との面会制限の影響に着目し、倫理的な側面から改善の必要性を訴えた。
UTOPIAというプロジェクトにおいて、1人で多くの業務をこなすことの限界を感じており、チームでのバックアップ体制の重要性を述べている。
人文社会科学だけでなく、政治学や経済学、心理学など多様な分野が協力して取り組むことの重要性を強調。
研究者に対して、研究に協力する被験者の思いを理解し、倫理的に研究を進めることの重要性を教育するミッションを持っている。
Transcripts
大学の3年生の時に誤診にあったことですね
医療を文系の力で良くすることはできないか
絶対変えてやるって思っちゃったんです
ELSI研究っていうのは英語のELSIという4つの頭文字なんです
それを並べてエルシーと呼んでいます
それぞれ倫理的・法的・社会的・課題っていう
日本語で言うとそういう言葉の
英語で表した時の頭文字になります
新しい科学の技術が進歩するときに
科学者の人たちは
「すごくいいことだ」「当然やったほうがいい」
「専門的にも実現できる」と思ってる内容を
いやいや、その社会の側から見たときに
例えばこれは本当に倫理的に大丈夫なんだろうか
今の法律の中で実施できる内容なのか
あるいは社会の人たちは本当に歓迎するのかっていうことを
ぶつけていくような
ぶつけながらただ文句を言ってるんじゃなくて
一緒に考えて、一緒にゴールを目指していくような
そういう研究分野になります
科学者の人たちとの対話っていうのがベースになります
それで、ふんふんふん、どういうことやりたいんですかって
あのもうちょっと教えてくださいって、聞かせてもらって
あ、そういうことなのかと
そういうことだとすると、ちょっとこれ
今 の日本の法律とかルールの中でやれるのかどうか
解釈が難しいでっていうことになったりしたら
国の人に聞いてみたりとか
それから私たちは一般の人たちがどう思うかっていうのを
すごく気にしているので
患者さんとかご家族とか
一般の方々に 向けた
いろんなアンケート調査だったりインタビュー調査だったり
そういうものを 行いながら進めてます
生まれてから死ぬまで全部関係があります
例えば 最近話題になっているのは
受精卵の段階でゲノムを編集して
自分たちが望む子供を持つという技術を
本当に使っていいんだろうかっていう課題もあります
ELSI研究自体はいろんなバックグラウンドの方が関わっていて
それぞれ元々のコアになる専門分野を持ち寄って
一緒に考えてるような感じです
私自身は社会学が出身です
2020年2月3日朝9時に
全く知らない厚生労働省の方から電話がかかってきて
新型コロナウイルス感染症って知ってますかって言われて
テレビでは 見たことがありますが何の用でしょうって
お聞きしたら
アドバイザリーボードっていうのを最初に作ることになって
そこに入ってくださいっていう電話だったんです
新型コロナウイルス感染症について全く私は知らなかった
皆さんと同じような、ニュースでしか知らないっていうことでいたので
ちょっと私感染症専門家じゃないし
そのアドバイザリーボードというところに入っても
お役に立たないんじゃないでしょうかっていう風に 言ったら
ちょっと別のものからちゃんと 説明するんでっていう感じで
もうものすごくお忙しそうな感じで電話を切られまして
これはただならぬ雰囲気だと思って
一応ご協力することになったんですけれども
そこからもう怒涛のような日々で
専門家会議っていうのは、その途中にできた
内閣官房の方の会議体なんですけれども
そういうのに関わって3年くらい過ごしてきました
たぶん厚生労働省の方は理系の先生たちだけだと
ちょっとまずいんじゃないかっていうことがあって
文系の人でなんか手頃な人誰かいないのっていう
これはだから様子を見て
ELSIの観点で気づいたら物を言うっていう
スタンスで行くしかないと思って
始まっ たんですね
1番最初の時には
ダイヤモンドプリンセス号の乗客の方々を下船させるべきか否かとか
その方々のサンプルを研究に使わせてもらって
ウイルスを同定して
この感染症の性質を理解するっていうことに使わせてもらってもいいかとか
そこからスタート
その後、例えば
人工呼吸器とかECMOという装置がたくさん存在してる訳ではない
すごく重症になる患者さんが たくさん1度に出現しちゃった時には
どの方から使うかっていうのを決めなくちゃいけないですね
そういうことを現場任せにしないで
国の方で方針を考えて
現場が悩まないで判断できるような
倫理的な考え方を出して欲しいっていうのは相当言ったけど
やってもらえなかった
面会を一律 に制限しちゃって
特殊に日本は長いですね
面会制限を当たり前のようにしてしまうけれども
確かに院内感染とか心配があるかもしれないけれども
今、家族と会わずに亡くなるっていう人たちがたくさん出るっていうのは
良くないことなので
どうにかならないかとか
感染者の情報を詳しく詳しく報道したり
行政 が発表したりするっていうことで
差別や偏見が非常に起きて
引っ越しをしなくちゃいけなくなったとか
学校に行けなくなったちゃったとかいろんなことがあって
そんな に公表する必要ありますかとか
偏見差別に関しては多分私だけじゃなくていろんな 人が声をあげたので
法律を1つ改正するときに
国や都道府県がしっかり
偏見差別が 起きないような対処をするっていうことが
改正されて入ったとか
啓発が進んだって いうのはあったかなと思いますね
もう1人弁護士の委員の方がおられて
2人ぼっちっていう感じ
自分の手の届く範囲で分かる範囲でしか余裕がなかったですね
本当は1人ぼっちでそういうとこに放り込まれるんじゃなくって
チームがあって
聞いたら答えてもらえるような関係性の
バックアップがいろんな現場とあったりすると
良かったなって思います
1人で関わったことの限界っていうのを今も感じます
実はUTOPIAでも1人ぼっちなんですよね
倫理的・法的・社会的にも大きい 影響があることだから
私たちだけじゃなくて
もっと多くの人文社会科学の人 が入って
一緒にやるべきだと思っています
なんかそういうことがないとこの3 年間
国の対策の中で
ぼっちで今ひとつ力を発揮できなかったっていうことは
改善できないと思ってまして
必ずしもELSIではないジャンル例えば
政治学とか経済学とか心理学とか
私たちの専門に及ばないところの人たちにも関わってもらって
やっていく必要があるんじゃないかなと思ってます
今、臨床のグループの中に身を置かせてもらっているので
臨床開発に関わっておられる先生方っていうのと1番近いと思うんですね
1番最初に人のサンプルをもらってくるところ
ウイルス学の本当に最初の肝のところですね
最初にウイルスを同定したいと、分離して同定したいと思ってる人たちが
どんなサンプルをどういう迅速なスピードで
欲しいと思ってるのかっていうことは
今、一生懸命教えてもらってるところで
そうすると次のパンデミックの時に
発生し ました、人に感染しました
そのサンプルをどうやって
早く 倫理的に
法律に則った形、倫理指針に則った形で
研究にいかせるかというのが
前よりは良くなるんじゃないかなと思っています
あとは、色々な規則が保守的に運用されてるところもあるので
緊急事態の時にどれぐらいのことを免除してやっていくのか
手続きを免除するのかいう方が
今回の課題としては大きいのかなと思います
念のためにいろいろやろうとするじゃないですか
ていうことが本当に多くて
緊急時に 思い切ってステップを飛ばして
意思決定を迅速にするっていうことも
どこまで 妥協できるのかって
ギリギリの線を考えるっていうのも
私たちの役目なのかなと思っています
転機が2つあって
1つはもう本当に子供の頃からなんですけども
なかなか 大多数の人が共有してる価値観を共有できない
どうして女の子はお道具箱がピンクや赤なのかとか
なぜ一夫一婦制じゃないとダメなのかとか
いちいち引っかかってしまって
社会になかなか適用できない子供だったんです
息苦しさとか生きづらさっていうのは
何から来るのかっていう ことにずっと関心があって
社会学っていう のはその様々な人々の考え方とか価値観と かを
相対化するような、客観的に見る
当たり前を疑うっていう言葉がよく使われるんですけど
なんでみんなが当たり前当たり前って言ってるのか
当たり前って言われてることの背景には
それで苦しんでる人が絶対いるはずだと 思って
大学に入ったんです
もう1つ2番目の転機は
大学3年生の時に誤診に あったことですね
その時の自分の体調とか
医師の振る舞いとか
親が嘆いていたこととか
忘れられない夏休みになりまして
もう少し医療を素人の力、文系の力でなんか良くすることはできないかって
すごい思い込んじゃって
絶対変えてやるって思っちゃったんですね
だけど当時は あまり今みたいに
人文社会科学系の人と医療の距離って
今の方が近いんです けども当時は
そういうこと学ぶ場所もあんまりなくて
大学院でいろんな先生方が寛容だったので
やってみたらって言ってくださって
ELSIの研究にたどり着いたっていう感じです
視点としては、できるだけ
人々の生きづらさに 関わるところを大事に持っておきたいと思ってます
この研究室立ち上げる時に
未来のサイエンスと今日・明日を必死に生きる人をつなぐっていう風に
決めたんですねで
医科研とか医科研病院がやってることっていうのは
今、治療法が本当にない人のために医療を開発するっていうことをやっていて
その開発に関わって貢献してくださる方
臨床試験とかで被者に なってくださる方っていうのは
自分はこの恩恵は受けられないってことはわかって協力してくださるわけです
未来のために協力してくださる
科学者の人は目指してるのはこの人を助けることでは残念ながらなくて
未来にこの病気と同じような方々のためにやろうとしてるっていう
その時間と空間のギャップがある中で
その間に入ってなんかできることはないかなっていう風に思ってたんです
基礎研究やってる研究者の人たちは
病原体が入ってる、人のサンプルにしか会わないと思うんですけど
それを提供してくださった方は人間で、病気に苦しんでる方で
その 方々がどういう思いで研究に協力しようという
気持ちになってくださったかっていう ことを
しっかり受け止めて
研究者に伝えたりあるいは
大学院生の教育に生かしたりっていうことが
ミッションかなと思っています
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