学校における労働安全衛生管理の観点からの適切な職場環境づくり ―労働安全衛生法と教職員の健康管理―(東京大学 名誉教授 小川正人・労働安全衛生総合研究所 部長 山本健也):校内研修シリーズ №132
Summary
TLDRこのビデオスクリプトでは、学校における労働安全衛生管理の重要性が強調されています。教職員の健康問題を防ぐために、適切な職場環境づくりや労働安全衛生法の遵守が求められます。メンタルヘルス不調の背景にあるストレスの原因と対策、早期発見・早期対処の重要性について説明されています。さらに、労働安全衛生法に基づく管理体制や、具体的な予防対策の事例を紹介し、学校経営における健康経営の視点から教職員の健康管理の重要性を説きます。
Takeaways
- 📚 講義は、学校における労働安全衛生管理の観点から、教職員の健康問題とその対策について解説しています。
- 👨⚕️ 山本健也さんと小川正人先生が、産業医としての経験をもとに、教職員の健康管理に関する講義を行います。
- 🏫 学校の教職員が直面する健康問題には、転倒や怪我、脳・心臓疾患、メンタルヘルス不調などがあります。
- 🧘 メンタルヘルス不調の背景には、ストレスの原因であるストレッサーや個人的要因、ストレス緩衝要因が関与していることが示されています。
- 🔍 ストレッサーの軽減、ストレス緩衝要因の強化、適切な対処行動の強化が、メンタルヘルス不調の予防に重要だとされています。
- 📈 ストレッサーやストレス緩衝要因、適切な対処行動の制御が可能で、これにより教職員の健康状態を維持することが示唆されています。
- 🛠️ 労働安全衛生法に基づく労働安全衛生管理体制は、教職員50人以上の学校と49人以下の学校で異なる义务を有しています。
- 🏥 産業医や衛生管理者による職場巡視が、教職員の健康状態の維持に役立つことが強調されています。
- 👥 教職員の健康状態は、学校経営の重要な資源であり、「学校健康経営」として取り組むべきだとされています。
- 🔄 衛生委員会の活動は、教職員の意見を集約し、職場環境の改善につながる重要な役割を果たしていることが示されています。
- 🌟 教育委員会と学校の連携、衛生推進者の育成、ポジティブメンタルヘルス対策の重要性が、学校の労働安全衛生管理の成功に寄与するとされています。
Q & A
山本健也さんはどの研究所に所属していますか?
-山本健也さんは労働安全衛生総合研究所に所属しています。
講義の目的は何ですか?
-講義の目的は、学校における労働安全衛生管理の観点からの適切な職場環境づくり、労働安全衛生法と教職員の健康管理について理解を深めることで、教職員の健康問題を適切に運営するための手段を提供することです。
教職員が直面する健康問題にはどのようなものが挙げられますか?
-教職員が直面する健康問題には、転倒や衝突による怪我、脳卒中、心筋梗塞、重症不整脈などの脳・心臓疾患、そしてメンタルヘルス不調が挙げられます。
ストレスの原因であるストレッサーが増加した場合、どのようにして健康に影響を与えることがありますか?
-ストレスの原因であるストレッサーが増加した場合、個人的なストレス対処能力が不足していると、ストレス反応が蓄積されて不都合な状況に進行することがあります。これはメンタルヘルス不調の背景につながることがあります。
教職員の休職者数が高止まりしている主な原因是什么ですか?
-教職員の休職者数が高止まりしている主な原因是、メンタルヘルス不調によるものです。これはストレスの原因であるストレッサーとストレス緩衝要因のバランスが崩れたり、適切な対処行動が取られなかったりする状況に起因するとされています。
早期発見・早期対処とはどのような対策ですか?
-早期発見・早期対処とは、教職員が不調を感じ始めた段階で早期に気づき、適切な支援や対処を提供することで、高ストレス状態やメンタルヘルス不調に進むのを防ぐ対策です。
ストレスチェックで測定されるものは何ですか?
-ストレスチェックでは「ストレス反応」が測定されます。個人の結果は本人にのみ通知され、管理職は承諾なしには結果を知ることはできませんが、職場全体の高ストレス者の割合やストレッサー、ストレス緩衝要因に関する集団集計結果は知ることができます。
予防対策としてどのようなアプローチがありますか?
-予防対策としては、対処行動の強化、ストレス緩衝要因の強化、およびストレッサーの改善が挙げられます。これらは教職員が自らの健康を維持することや職場環境の改善を通じて実現することが可能です。
勤務間インターバルとは何ですか?
-勤務間インターバルとは、職場を出る時間と職場に来る間の時間を一定時間以上確保する取り組みです。これは睡眠時間を確保することを目的としており、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調などの健康への悪影響を減らすことが期待されています。
教職員の健康管理を強化するために、学校はどのような取り組みをすべきですか?
-学校は労働安全衛生法に基づく労働安全衛生管理体制を整え、衛生委員会の設置や産業医の配置、ストレスチェックの実施などを行うことが求められます。また、健康経営の観点から職場環境の改善や教職員の健康へのリテラシーの向上にも取り組むべきです。
Outlines
📚 学校における労働安全衛生管理の重要性
山本健也氏と小川正人先生による講義では、学校職場における労働安全衛生管理の観点から適切な職場環境づくりの重要性が説明されています。教職員の健康問題が学校経営に及ぼす影響や、労働安全衛生法に基づく健康管理の取り組みが議論されています。特に、教職員のメンタルヘルス不調の原因やその予防・対策について詳細に触れられています。
🧘♂️ メンタルヘルス不調の原因と対策
教職員のメンタルヘルス不調は、ストレスの原因であるストレッサーと個人的なストレス緩衝要因のバランスから生じるものです。ストレッサーが増大すると、ストレス反応が高まり、適切な対処行動が取られない場合、問題行動やメンタルヘルス不調につながります。早期発見やストレスチェックの活用、ストレス緩衝要因の強化などが、療養休暇や休職を防ぐ上で有効な対策として挙げられています。
🛠️ 労働安全衛生法に基づく学校の健康経営
労働安全衛生法に基づく労働安全衛生管理体制の構築が、教職員の健康管理において不可欠です。法律が求める安全衛生マネジメント体制、産業医の配置、ストレスチェックの実施などについて触れられています。また、健康経営の観点から、職場環境の改善やポジティブメンタルヘルス対策の重要性が強調されています。
🏫 学校の衛生委員会の役割と取り組み
衛生委員会は、教職員の健康と安全に関する問題を調査し、審議し、改善策を提案する重要な場です。教職員の健康被害防止や健康の保持増進、安全衛生教育などがその活動の範囲に含まれています。川口市や奄美市の取り組みが具体例として紹介され、教育委員会と学校の連携が重要であることが強調されています。
🤝 教育委員会と学校の連携による衛生管理
教育委員会が学校の衛生管理をサポートする体制の構築と方針策定が重要です。川口市教育委員会の取り組みが紹介され、市内全学校の状況や取組みを共有し、予防に重点を置いた取り組みが行われています。また、産業医の活用が教育委員会と医師会の連携を通じて行われている点も触れられています。
🏢 学校内での衛生委員会の運営と改善
学校内での衛生委員会の運営方法が議論されています。金久中学校や十二月田小学校の取り組みが具体例として紹介され、衛生推進者や衛生管理者の役割、教育委員会による計画的な育成と研修の必要性が強調されています。また、年間計画の作成や健康経営の観点からの取り組みが提案されています。
🌟 学校健康経営への取り組みの重要性
教職員の健康を維持することが、学校経営の最も重要な資源であると結びつけています。労働安全衛生管理を通じて、教職員の健康維持に力を入れることが、持続可能な学校経営に向けた重要なステップであることが示唆されています。また、教職員参加型の職場環境づくりの取り組みを始めるよう促されています。
Mindmap
Keywords
💡労働安全衛生管理
💡教職員の健康管理
💡ストレスチェック
💡メンタルヘルス不調
💡ストレス緩衝要因
💡適切な対処行動
💡早期発見・早期対処
💡勤務間インターバル
💡衛生委員会
💡学校健康経営
Highlights
山本健也氏と小川正人先生が共に講義を行い、学校における労働安全衛生管理の観点から職場環境づくりと教職員の健康管理について語る。
教職員の健康問題には様々な原因があり、職場環境や個人の対処不足が関係している。
教職員のメンタルヘルス不調による休職者数が高止まりが問題となっている。
ストレスの原因とメンタルヘルス不調の一般的な過程について解説されている。
ストレスチェックの活用が、高ストレス状態になる手前に予防する手段として提唱されている。
早期発見・早期対処が、教職員のメンタルヘルス不調による療養休暇や休職を防ぐ取り組みとして挙げられている。
ストレスチェックの測定内容とその管理職への通知ルールについて説明されている。
学校での予防対策として対処行動の強化やストレス緩衝要因の強化が提案されている。
労働安全衛生法による労働安全衛生管理体制の概要が説明されている。
教職員の健康管理が学校経営の最重要資源として位置づけられ、学校健康経営の重要性が強調されている。
学校における安全衛生の確保は事業者の責任として、労働安全衛生法で義務付けられていることが示されている。
教育委員会と学校の連携が、学校の衛生委員会活動をサポートしている川口市の取り組みが紹介されている。
衛生推進者が講師として、安衛法や教職員の安全健康に関する研修会を開き、衛生委員会の取り組みを評価している奄美市の金久中学校の例が紹介されている。
衛生委員会の運営方法として、年間計画の作成とそのサイクルを提唱している。
学校経営における健康経営の取り組みが、教職員の健康維持に重点を置いており、ポジティブな影響を及ぼすよう提案されている。
労働安全衛生管理の手段を上手に活用し、学校が主体となった教職員の働き甲斐の確保に努めることが勧められている。
Transcripts
労働安全衛生総合研究所の 山本健也です
本日は学校職場の産業医として 長年勤務してきた経験をもとに
「学校における労働安全衛生管理の 観点からの適切な職場環境づくり
労働安全衛生法と教職員の 健康管理」 について
東京大学名誉教授の小川正人先生と 一緒に講義をさせていただきます
労働安全衛生管理は それを実践することが目的ではなく
教職員の健康問題に起因する 学校経営を適切に運営するための手段です
この動画ではその方法等について このような流れで
具体的にご説明します
学校の教職員を取り巻く健康問題には 様々なものがあります
代表的なものには 転倒・衝突などによる怪我
脳・心臓疾患と呼ばれる脳卒中や 心筋梗塞・重症不整脈など
そしてメンタルヘルス不調が 挙げられます
それぞれの青い吹き出しの上の行は 職場の対処不足
下の行は個人の対処不足によって 起こるものです
ではそのうちメンタルヘルス不調について 少し詳しくお話します
教職員のメンタルヘルス不調による 休職者数が高止まりということが
よく知られています
ではメンタルヘルス不調は どのようにして起きるのでしょうか
この図はストレスの原因である ストレッサーが
メンタルヘルス不調に至る 一般的な過程を示したものです
普段は20のストレッサーが かかっているとします
「個人的な要因」および 「ストレス緩衝要因」
周囲の支援や上司の支援が含まれます
これらを足し引きした結果 10のストレス反応が発生します
通常は何がしかのストレス対処能力を 持っていることが多いので
適切な対処行動(10)で相殺されて 右の赤枠にある「問題行動」や
「メンタルヘルス不調」には 進んでいきません
ですが何らかの理由で ストレッサーが大きくなった場合に
個人的要因やストレス緩衝要因は すぐには変わらないので
ストレス反応が40に上がります
個々の対処能力が10しかなければ 処理ができないストレス反応が
30残ってしまいます
これが徐々に蓄積をしていくと 右の赤い枠のような不都合な状況に
進行することになります
このようにメンタルヘルス不調の背景には 様々な要因が絡んでいます
これらの各要因について学校の教職員では このようなものが当てはまります
ストレッサーに当てはまるのは 周年行事であったり
研究授業への対応 苦手な部活への対応などが当てはまります
ストレス緩衝要因に関しましては 対人関係であったり
あと異動に伴った 様々な周辺環境の変化への対応
というものが当てはまります
適切な対処行動に当てはまるのは ストレスへの脆弱性
経験値不足・コミュニケーションの 技術の不足などが当てはまります
メンタルヘルス不調に関わる これらの要因の多くは
制御をすることができます
「ストレッサー」や 「ストレス緩衝要因」については
職場が主体的に
「適切な対処行動」については 教職員が自らの健康の維持を図ることで
病気やそれに伴う学校経営への負担を 減らすことができるのです
なお長時間労働は このうちの一要因に過ぎません
どの部分を制御するかについては 皆さんで考えることが大切です
さてこの図は メンタルヘルス不調者の発症から
復職までの経過を追ったものです
教職員のメンタルヘルス不調による 療養休暇や休職を防ぐ取組みとして
これまでに実践されてきた対策には 「早期発見・早期対処」が挙げられます
本人は不調であることを あまり表に出したがらないため
ぎりぎりまで我慢してしまい
結果的に突然職場に 来なくなることなどで
初めて「高ストレス状態」が 認識されることもあります
そうなる前に上司や周囲が いかに早めに気づいて
支援をするかが重要となります
例えばうつ病では このようなサインに気づくことが重要です
早期に気づくことで 高ストレス状態から
メンタルヘルス不調に進むことを 防ぐことができます
ですができれば高ストレスになる 前の段階で予防したいですよね
ストレス反応を高くしないためには ストレッサーの軽減や
ストレス緩衝要因の強化
適切な対処行動を強化することで ストレス反応を制御することができます
こうした活動により 「高ストレス状態になる手前」で予防することで
メンタルヘルス不調による 療養休暇や休職を防ぐことができるのです
そのための方法の一つとして ストレスチェックの活用があります
ストレスチェックでは 何を測定しているかご存じでしょうか
まずストレスチェックでは 「ストレス反応」が測定されています
この「個人の結果」は 本人にのみ通知され
管理職は本人の承諾なしに その結果を聞くことはできませんが
職場全体での高ストレス者の割合や ストレ ッサーのうちの
「仕事の量と内容」 そして「コントロール」
それとストレス緩衝要因のうち 「上司の支援」「同僚の支援」については
集団集計の結果から 知ることができます
学校ごとの集団集計結果があれば それを基に学校を取り巻く
ストレス環境の状況と その対処法を検討することが可能です
それではメンタルヘルス不調を 防ぐために
学校ではどのような取組みをすれば よいでしょうか
予防対策の例をいくつかご紹介します
まずはじめは「対処行動の強化」です
ストレスコーピングとも言われており セルフケアの一環として
教職員個人個人で 取り組む必要があります
例としましては 誰かに相談をする
それからストレス解消法をもつなどの いくつかの方法がございます
もっとも教職員はこうした 自分で健康を考えるという機会が
あまり多いとは言えないようです
衛生委員会や職員会議などの場で 健康に関連する話題を多く提供して
健康へのリテラシーを 高めることがとても大事です
次はストレス緩衝要因の 強化になります
これは周囲の支援 すなわち「同僚性」を
高めるということと同じになります
例としましては相談であったり 支援であったり
そして負荷が高い場合に関しましては ストレッサーの改善につながりますけども
仲間で取り組んでいく というようなことも当てはまります
教職員職場ではストレッサーの制御が なかなか容易ではありません
ストレッサーが上がった場合には それに伴うストレス反応への移行を
抑制するためにこの同僚性 ストレス緩衝要因の強化というのは
とても重要になります
そしてメンタルヘルスの不調者による 休職を抑制する効果も
あるというふうに 研究結果もあります
こうした対応で 充分に制御ができない場合には
「ストレッサーの改善」に 進む必要があります
先ほどのような 負荷の軽減ということと合わせて
職場環境の改善というものも 効果があります
産業医や衛生管理者の 職場巡視を利用して
職場の環境改善することも 教職員の怪我や健康の防止に役立ちます
この職場環境改善は メンタルヘルス対策としての効果が
あることも知られており
ストレスチェック後の対策ツールとして 厚生労働省でも採用されています
こうした取組みのどれを 実施するのが良いのかというのは
学校ごとに違います
なので学校の実態に応じて 考えることがとても重要です
ここまで教職員のメンタルヘルス不調 について話をして参りましたが
教職員の健康管理はメンタルヘルス 不調だけではありません
健康状態によっては 働かせてはいけないような業務もあり
「医師の意見」等を基に安全に 働かせることに配慮する必要があります
これらのうち動脈硬化性疾患などにより 発生する「脳・心臓疾患」については
令和3年度に労働災害の認定基準が 改訂されましたが
その中に新たに「勤務間インターバル」が 導入されたのはご存じでしょうか
勤務間インターバルとは 職場を出る時間と職場に来る間の時間を
一定時間以上確保する取組みです
この勤務間インターバルの 本質的な目的は
実は睡眠時間をきちんと 確保するということにあります
睡眠時間を確保するためには例えば 起床時間から逆算して
前日の目標退勤時間を設定して それに合わせて業務の優先度を決めるなどの
取組みに繋げることができます
皆様の学校では「在校時間を減らす」 こと そのものが目的になっていないでしょうか
「在校時間を減らすこと」の真の目的は 脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調などの
「健康への悪影響を減らすこと」にあります
職場から離れる時間を多くとることは 心理的な不安を軽減するという
研究結果もあります
勤務間インターバルの背景も理解して 毎日6時間の睡眠を取る働き方を
目指すことが大切であり
また「早く帰りましょう」ではなくて 「ちゃんと寝ましょう」と働きかける方が
言われた方も 納得しやすいのではないでしょうか
ご覧いただいたように 教職員の健康問題には様々な背景があり
学校事情や教職員事情に応じて その制御の方法を
柔軟に検討・実施することが 大事だということがお分かりかと思います
そして健康問題は教職員個人に その対応を任せるのではなく
職場として取り組むことが必要です
この後小川先生からお話しいただく 「労働安全衛生管理」は
これらを効率的に 実施するための仕組みです
東京大学名誉教授の小川正人です
2.労働安全衛生と 教職員の健康管理については
私から説明させていただきます
職場における安全衛生の確保は 事業者の責任です
労働安全衛生管理に関する法律である 労働安全衛生法
以下「安衛法」と略称で言いますが この法律は労働災害の防止のため
様々な取り組むべき事項を定めています
特に近年では 長時間勤務による過労死予防や
メンタルヘルス対策に関する 法令改正が相次いでいます
安衛法で義務付けられている 労働安全衛生管理体制は
表のようになっています
教職員50人以上と49人以下の 学校規模により違いがありますが
安全衛生活動を中心的に担う者の選任 調査審議する組織の設置
産業保健専門家の配置 ストレスチェックの実施などが
求められています
なお衛生委員会の設置をはじめ 法令上の義務付けが弱い49人以下の学校は
全国で85パーセント以上と 圧倒的に多いのですが
教職員49人以下の学校においても 教職員への意見聴取などによる
同様の取組みが求められていることを しっかり認識しておく必要があります
自治体によっては 教職員49人以下の学校でも
衛生委員会を設置している ところもありますし
衛生委員会に準ずる組織 例えば安全衛生懇談会とか
校務分掌組織の学校保健委員会等の 既存の委員会と併用するなど
様々な工夫をして体制を 整備しているところもあります
近年では安全衛生に配慮した 職場環境の改善・整備が
勤労者のモラールと生産性を 高めるという健康経営の考え方
またメンタル不調者を対象にした対策から 全従業員を対象に
安全・健康に働ける職場作りを目指す 「ポジティブメンタルヘルス対策」の
重要性が言われています
経済産業省も2016年度に 健康経営優良法人認定制度を創設し
健康経営の普及拡大を促しています
安全衛生管理は学校・教職員にとっても 大変重要であり
教員が健康に働き 充実した生活を送ることは
個人にとってもウェルビーイングを 実現していくうえで大切ですが
社会的にも重要な意義を有しています
第一に教職員が心身共に健康で 意欲的に職務に取り組むことは
児童生徒にも教育活動にも 良好な影響を及ぼし
学校教育の質的維持・向上に 不可欠です
第二に近年教員の長時間勤務や メンタル不調の増加などを理由に
若い優秀な人材が教職を 忌避する傾向が強まっています
優秀な人材を確保するうえでも 安全・健康に働き
やり甲斐と成長を実感できる 学校の労働環境の改善は喫緊の課題です
第三に病気休職者の増加は 休職期間中の給与保障や
代替教員の確保など財政負担も大きく 膨大な経済損失を生じさせます
病気休職者 1人の経済損失は 本人給与の約3倍という試算もあり
それに従えば公立学校教員の病気休職で 年間700~800億円の
経済損失が 生じていることになります
教職員の安全健康を 大切にした学校経営には
校長の指導力と 教職員の自主的取組みが重要であり
衛生委員会の活動はその要です
特に学校や教職員は 「子どものため」という意識が強く
仕事や生活上の優先順位では 自分達の健康等を後回しにする傾向があります
衛生委員会はそうした学校の中で 働く者の安全健康の視点で
職場の労働環境や働き方を考え 改善・提案できる大切な場です
安衛法では衛生委員会の 調査審議事項として
健康被害防止・健康の保持増進 安全衛生教育等が規定されていますが
年間を通じて何を どう取り組めば良いか
よく分からない等の声も 学校現場から多く聞かれます
衛生委員会の進め方としては まず教職員の安全衛生や
健康に対する関心を高めるために
時期にかなったタイムリーな話題を 取り上げたり
また職場の働く環境等について アンケート調査で調べた集計結果や
健康診断・ストレスチェックの 集団分析結果を受けて
職場の実情・問題を共有したうえで それら調査報告を受けて
職場でどのような取組みをどういう体制で 進めていくかを審議していく
というように啓発・調査・報告 そして審議というサイクルで
衛生委員会を年間を通じて 運営していくのが望ましいと考えます
ではここからは いくつかの事例を紹介したいと思います
最初に教育委員会と学校の連携で 学校の衛生委員会活動を
サポートしている川口市の例です
学校の安全衛生管理は公立学校の場合 教育委員会の責任であり
学校の安全衛生活動をサポートする 教育委員会の体制づくりと
方針策定は極めて重要です
そうした教育委員会の体制づくりと 方針策定があると
学校における安全衛生活動が 大変やりやすくなります
学校に「丸投げ」しないという 姿勢が重要であり
その例として 川口市の取組みを紹介したいと思います
川口市教育委員会には 学校教職員衛生委員会が設置され
年3回程開催されています
活動内容は 市の安全衛生推進計画
また市内全学校の状況や 取組み等を共有するほか
メンタルヘルス対策等 市の施策計画等が審議され
その内容は市内学校の管理職 衛生委員会に通知されます
また市全体での取組としては 「休職者を出さない」という予防に
重点を置いた取組みの一つとして
教職員メンタルヘルスカウンセラーの 市の採用と
その2名のカウンセラーによる 学校巡回や
新採用・異動1年目の教職員に対する 個別面談のほか
新任教員に対するメンター制の実施 ストレスチェックの活用
そして注目したいのは学校に対して 産業医を活用した安全衛生事業計画を立て
実施することを求めている点です
皆さんもご存じのように 産業医の活用は各学校では
なかなかできない取組みですが 市教育委員会が市の医師会と連携し
各学校担当の産業医を配置しており その産業医を各学校の状況に応じ
計画的に活用することを促している点は 大いに参考にしてよいと思います
学校からも学校の安全衛生活動を支援し 活動がしやすくなるよう体制づくりを
教育委員会に要請することが大切です
次に校長と衛生推進者が連携し 原則的な衛生委員会活動を進めている
奄美市の金久中学校の 例を紹介します
この学校では従来 学期毎に1回程しか開催せず
形式化していた衛生委員会を 見直すことから取組みを始めています
衛生推進者を講師にして改めて 安衛法や教職員の安全健康をテーマに
全教職員で研修会を開き 安全衛生活動の意義を再確認して
衛生委員会を月1回開催すること
また職場の労働環境の現状と課題を 共有するため全教職員に
年2回アンケート調査を行い 集計結果を職場に公表し
衛生委員会でも調査・審議をして 課題をまとめ
校長から対策を表明してもらう という取組みや
業務改善でも衛生委員会が アンケート調査を実施し
様々な業務の見直しも進めています
衛生委員会が広く教職員の声を集約して 取組み課題を整理してくれるので
教職員も安心して声をあげられるし 校長もそうした教職員の声を踏まえて
学校経営ができると 衛生委員会の活動を評価しています
最後に柔軟な衛生委員会運営を行っている 川口市の十二月田小学校を紹介します
忙しい学校で 衛生委員会の委員になることや
月1回の会議を開催することは 大変というのが
多くの学校の実情かと思いますが
委員構成や運営で 工夫をしている例です
この学校では衛生委員会のメンバーに 管理職を入れていないこと
委員会メンバーは衛生推進者の 養護教諭と教員代表の2名以外は
メンバーを固定せず 毎回各学年で参加できる
学級担任1名が 交代で出席しています
議題は安全衛生に限らず 働きやすい職場づくりに関するものであれば
様々な要望・意見などを自由に 出せる場とするようにしています
そして話し合った内容は 毎月「衛生推進委員会だより」を発行し
全教職員に周知するとともに 相談事や対策等を匿名で投稿できる
QRコードも掲載しています
そうして集約された要望・意見は 校長に伝えられ
可能な対策を講じてもらう 体制になっています
また産業医の学校訪問を活用し 初任者や在校等時間80時間を超える
教職員の健康相談を 促すようにもしており
面談しやすいよう時間を 確保する配慮もしています
以上いくつかの事例を紹介しましたが 衛生委員会は学校における
日常的な安全衛生活動の要ですので 継続的に取り組めるよう様々な工夫をして
運営していってほしいと思います
なお副校長・教頭が衛生管理者 衛生推進者となっている学校も多いですが
副校長・教頭は多くの仕事を担い 教職員の中でも特に
長時間労働が問題になっています
教頭・副校長には管理職としての 職務に専念してもらい
衛生推進者・衛生管理者が 名ばかりにならないよう
教頭・副校長以外の教職員から 選任することが望ましいと思いますし
そのために教育委員会は 衛生管理者・衛生推進者の
計画的な育成と研修を 図っていく必要があります
それでは最後2人で まとめたいと思います
紹介した事例からは 校内での管理職と衛生管理担当者
そして教育委員会と学校の連携が 大切ということが分かります
これらが連携して 今後取り組んでいく際
特に留意したいことは どういうことでしょうか
衛生管理を担当する方には 業務に関する能力向上を図るための
研修等が必要かと思います
ただし学校の中の衛生の担当者に 全てを任せるのではなくて
学校外からも情報提供などの 衛生管理が円滑にできるような
支援をすることも とても大事だと思います
衛生管理者や衛生推進者は 学内の課題と学外からの情報を整理して
それらを教職員と協議して ともに解決に導く役割が
求められているという事でしょうか
そのことを衛生委員会として 取り組んでいくためには
改めてどのように 整理すると良いでしょうか
一つの例としましては年間計画を 作るということがあるかと思います
このページは 長野県教育委員会の
「労働安全衛生管理サポートガイド」 から引用したものです
年間計画を作るにあたりまして 「啓発」「調査・報告」
「審議」というサイクルで 学校の行事に合わせて
年間計画を作ってみると 意外に無理がなく
衛生委員会の活動計画を 作れるというふうに提案されています
そしてこれが作られた年間計画です
このように学外や学内の情報を基に 学校の実情に応じた計画を作成して
継続的に検討や振り返りを することをお勧めします
また先ほど「健康経営」とか 「ポジティブメンタルヘルス」という考え方が
民間等で近年重視されてきている という話もありましたけども
それは学校にも同じことが言えると 考えてよいでしょうか
学校にも「学校経営」という 言葉がありますよね
児童・生徒の教育という 目標の達成のためには
教職員の健康は 重要な経営資源であり
労働安全衛生活動を通して 教職員の健康維持に力を入れること
すなわち学校・健康経営を意識した 取組みを進めることが重要です
それでは最後に 今回の動画をまとめます
教職員の健康問題の背景には 様々な要因がございます
何を制御すれば良いのかは 職場や事例ごとに違っています
教職員個人が取り組む 自身の健康管理について
様々な情報を提供することが まずは必要です
そして職場として取り組む際には ゼロからではなくて
「安全衛生管理」の仕組みを 利用することができます
他校や他の自治体での好事例も ヒントにしながら
またストレスチェックの結果等の 情報源を利用しながら
職場環境改善の取り組みも可能です
こういったことを基にして 労働安全衛生管理を進めていく中で
教職員の健康を学校経営の 最重要資源と考えて
「学校健康経営」として取り組むことを お勧めしたいと思います
健康に働くということは サスティナブルのテーマでもあります
持続可能な学校経営のためにも 労働安全衛生管理の手段を上手に活用して
学校が主体となった教職員の 働き甲斐の確保に是非努めてください
ここで講義は終了しますけれども 本講義終了後は是非
視聴して終わりにせず 各学校において
労働安全衛生管理の観点からの 職場環境づくりについて
教職員間で意見を出し合い
教職員参加型で教職員が心身ともに 健康に働けるような職場となるよう
出来るところから 取組みを始めてみてください
講義資料の最後に チェックポイントを付けておりますので
そちらも是非ご活用ください
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